英語が一番の言語ではない
2017.08.27 up
中学年齢の教科書でOTANで説明されるNATO(北大西洋条約機構)
あるブラジルの家庭で親子の会話。
親:「OTAN(オタン)って何?」
子:「北半球の西側諸国が結束していた組織のこと」
親:「それってNATO(北大西洋条約機構)のことじゃない?」
子:「NATO(ナトー)?」
親:「英語式にNATOと習わなかった?」
子:「いや。OTAN(オタン)だけ」
ポルトガル語でOTANは「Organização do Tratado do Atlântico Norte」の略。フランス語の「Organisation du Traité de l’Atlantique Nord」の略と同じです。国連の公用語であるフランス語は、英語とは対等な関係で、NATOでもOTANでもどちらかが分かっていれば問題ないといったところかもしれません。
ブラジルの公用語であるポルトガル語は、フランス語とは同じラテン語なので似ているところがあります。フランス語の感覚で理解できれば学校ではOTANとだけ教えていれば、何も英語に追随することはなく、NATOと教える必要もないかもしれません。
NATOとOTANの文字が入った北大西洋条約機構のシール
日本で教育を受けた者からすると、NATOを逆さに読んだOTANは、音の響きも違えば、文字列も逆さまです。日本とは反対のことが少なくないブラジルを象徴するかのようですが、冗談を言っているのか、からかわれているのかと、誤って勘違いすることもありそうです。
他にも、EU(ヨーロッパ連合)がポルトガル語ではUE(União Euopeia)になるなど、英語感覚からすると逆さまな略称だけで通用しており、英語式では小中学校で教わらないことも珍しくありません。
英語コンプレックスを持たず、英語にひれ伏さないブラジルの勇ましさを垣間見る思いです。
教科書でヨーロッパ連合(EU)を説明するページの見出しはUnião Euopeia(UE)
日本のニュースでは、国際化のために「英語、英語」と唱える話題も目につきます。経済的には英語が優勢な世界かもしれませんが、文化的には英語が外国語のすべてではありません。英語が世界を席巻したのは、第2次世界大戦の連合国の勝利によるところも大きいに違いなく、特に日本は戦争に負けたことが英語コンプレックスの要因の一つかもしれません。
米国に負けたわけでもないフランスやブラジル。自国の言語を第一にして、英語に追随しない、追随せずに済む自信は教育現場や教師にも感じられます。
学校では、米国のスタイルを快く思わない先生も珍しくなく、無理に英語に追随しようとする人はあまりいません。現代史の読み方も決して連合国軍側に立ったものではなく、クールで冷静に捉えています。国際戦争で敗戦国側に立ったり、新しい体制派の迫害を受けて移民してきた人がブラジルには少なくなく、決して勝者の歴史観に惑わされない目を持っているのかもしれません。
学校の教科書でUEと表記されるEU(ヨーロッパ連合)
英語を学習する人、話す人、話そうとする人はブラジルでも少なくありませんが、「思いのほかブラジルでは英語が通じない」と、英語で海外を渡り歩いて来た人からは時々聞かれます。
サンパウロでは、2014年のサッカーW杯頃まで、公共交通機関などでも英語表示はありませんでした。このW杯、16年のリオオリンピックに合わせて、主要公共交通機関のメトロの表示板に、ようやくポルトガル語に合わせて英語が表記されるようになりました。それでも、英語はポルトガル語よりもわざとかのように、明らかに小さく表記されているのが目につきます。
数年前、ブッシュ元米国大統領がブラジルを訪問した時には、同大統領よりもサンバダンサーを大きく写した写真を有力紙の一面に掲載していることもありました。
英語をより小さく記す設置者の意図は分かりませんが、かつて大航海時代の先駆けとなった誇り高き海洋帝国ポルトガルの文化であるポルトガル語、国連でも英語を覚えなくても「フランス語寄り」で問題なしの余裕を感じさせるポルトガル語文化圏のブラジルです。
メトロの構内の案内。ポルトガル語より明らかに文字が小さい英語
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