ブラジル

ブラジル:サンパウロ

大浦 智子(おおうら ともこ)

職業…フリーランス
居住都市…ブラジル国サンパウロ市

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2018年のブラジル難民サッカーワールドカップを訪問して主催者のNGOの代表から感謝状を受け取るブルーノ・コバス氏

2018年のブラジル難民サッカーワールドカップを訪問して主催者のNGOの代表から感謝状を受け取るブルーノ・コバス氏

 5月16日、サンパウロ市内の州旗は半旗となる景色が広がりました。ブルーノ・コバス前サンパウロ市長が、同日、サンパウロ市内のシリオ・レバネース病院でがんにより死去したためです。享年41歳。

 消化器系のがんを患い、市長の職務を遂行しながら2019年より闘病生活を送っていましたが、身体各所に転移していることが追って公表されていました。自身のfacebookでも息子のトーマス君と最後まで戦う姿をアップし、実際に副市長が職務代行することになった、亡くなる2週間ほど前まで、現役で働いていました。闘病中の中、2019年には市長選に立候補し、2020年には再選を果たしました。


サンパウロのボリビアコミュニティーのfacebookに寄せられた哀悼のメッセージ

サンパウロのボリビアコミュニティーのfacebookに寄せられた哀悼のメッセージ

 同氏は日本人や日系人移民からも人気のあった元サンパウロ州知事、マリオ・コバス氏を祖父に持ち、文字通り“政界のサラブレッド”として将来が嘱望されていました。別れた前妻は日系人であることも知られていました。

 サンパウロ州サントスで生まれ、サンパウロ大学法学部を卒業後、20代から政治の道に進んだブルーノ・コバス氏は、中道右派のブラジル社会民主党(PSDB)で活動していました。

 同党はどちらかと言えば企業家など中流以上の国民に支持者が多く、ブルーノ・コバス氏も富裕層の出身ですが、とても親しみやすい気さくな雰囲気があり、中流以下の庶民層にも温かなまなざしを向けている政治家の印象を受けました。

 特に、同氏と同世代以下の層を占める、この15年ほどの間に世界各国から到着してサンパウロで暮らし始めた移民や難民にも、積極的に歩み寄る姿勢を見せていました。他の市長や知事には見られなかった行動で、サンパウロの様々な移民や難民のコミュニティーやNGO、一緒に記念撮影した個人からも次々と写真を添えて哀悼のメッセージがSNSなどで送らています。


ブルーノ・コバス氏との記念写真を添えて哀悼の意を表する個人のSNS

ブルーノ・コバス氏との記念写真を添えて哀悼の意を表する個人のSNS

 「信じられない。悲しみしかない」
と、サンパウロで難民と移民を支援するNGOアフリカ・ド・コラソンのメンバーたちは口をそろえました。

 同NGOは、2014年からブラジル難民サッカーワールドカップを主催し、2018年の優勝決定戦にはブルーノ・コバス氏も来賓として訪問し、参加者と一緒に記念撮影する様子などがありました。2019年のサンパウロ大会にも訪問予定でしたが、その前日に闘病生活に入りました。

 それから2年。様々な国から来てブラジルに暮らす移民や難民たちは、強力な支援者を失ったことに肩を落とします。

 ブラジルの政治家は有名になるほど、汚職と身内のエゴを中心とした悪名ばかりが流されて敵の方が多くなりますが、41歳というまだこれからという若い政治家であり、20代から着実に実績を積んできた市長で、これほど同世代から惜しまれる政治家は稀有な存在です。合掌


2018年のブラジル難民サッカーワールドカップを訪問して準優勝のアンゴラチームと記念撮影するブルーノ・コバス氏

2018年のブラジル難民サッカーワールドカップを訪問して準優勝のアンゴラチームと記念撮影するブルーノ・コバス氏



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