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台湾:台北

小川 聖市(オガワ セイイチ)

職業…日本語教師、ライター

居住都市…台北市近郊の新北市(台湾)

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林昶佐立法委員(国会議員に相当)

林昶佐立法委員(国会議員に相当)

 昨年12月18日に実施された住民投票のことを紹介しました。

 その際、今年1月9日に実施された補欠選挙と住民投票について触れましたが、結果はどちらも民進党の望むものとなりました。

【参考】

 http://www.ima-earth.com/contents/entry.php?id=20211222153050

 http://www.ima-earth.com/contents/entry.php?id=20221218114

 今回は、その補欠選挙と住民投票について触れます。


昨年12月17日の集会にて

昨年12月17日の集会にて

 住民投票は、龍山寺がある萬華區と隣接する中正區の一部で構成される台北市第五選挙区で実施されました。内容は2020年の選挙で当選した林昶佐立法委員の罷免に関するもので、提起したのは台北市議会の同じ選挙区の鍾小平議員と鄭大平氏でした。

 鍾議員は現在無所属ですが、その前は國民党に在籍。そのつながりだけでなく、「相手陣営の議席を減らせる」という視点から國民党も少なからず協力していたようです。

 住民投票決定後、林立法委員と2020年の選挙時から林立法委員を支えている民進党は反対に向けて動き出しました。その内の一つが1枚目の12月4日の説明会と2枚目の前夜集会での演説です。演説の他、民進党の関係者をはじめ時代力量在籍時に一緒に政治活動を行ってきた仲間たちも協力し、選挙区での呼びかけを徹底して行いました。

 鍾議員と鄭大平氏も、西門町の目立つところにお願い広告を出し、呼びかけの車も出して動きました。

 結果は、賛成5万4813票、反対4万3340票と賛成票が上回っているものの、罷免に必要な5万8756票(公職選挙罷免法第90条の規定で定められている選挙区の有権者23万5024人の4分の1)を超えることができず無効となりました。

 罷免投票に至った経緯はいろいろ言われていますが、國民党の立場では、2020年6月に住民投票で罷免された前高雄市長の韓國瑜氏の報復の一環もあり、提起した鍾議員の立場では、罷免決定後に行われる補欠選挙で自身が立候補して当選し、國民党の党籍を回復させる狙いもあったようです。


 
【参考】

https://newtalk.tw/news/view/2021-11-24/671065

https://www.facebook.com/Rtijp/posts/1802891363233458

https://newtalk.tw/news/view/2022-01-09/693929

https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawSingle.aspx?pcode=D0020010&flno=90

https://tw.news.yahoo.com/為萬華討公道-洗刷恥辱-鄭大平-下架作秀政客林昶佐-131035602.html


陳柏惟前立法委員(昨年12月17日撮影)

陳柏惟前立法委員(昨年12月17日撮影)

 補欠選挙は、新幹線の台中駅がある台中市第二選挙区で実施されました。

 この選挙区は、大甲鎮瀾宮の童事長(取締役会長に相当)で地元の有力者である顔清標氏の地盤として知られていて、顔清標氏自身も台中縣時代から、縣議会議員、議長を経て4期連続で立法委員に当選していました。しかし、2011年に台中縣議長時代の汚職事件で有罪判決が確定してから。刑法第36、37条の規定に基づき、公権剥奪3年6ヶ月も確定し、失職しました。

 それを受け行われた2013年の補欠選挙には、息子の顔寛恒氏が国民党の公認候補として立候補し、当選したものの、民進党の対立候補との差は1138票。

 2016年の選挙も2013年の補欠選挙と同じ顔合わせとなり、こちらは5899票差をつけ顔寛恒氏が当選しましたが、かつての父のように万単位の票差をつけることができなくなっていました。


国民党陣営の罷免活動の様子を紹介する陳柏惟前立法委員

国民党陣営の罷免活動の様子を紹介する陳柏惟前立法委員

 2020年の選挙では、新興政党である台湾基進所属で民進党の支援を受けた陳柏惟氏と顔寛恒氏との一騎討ちとなりましたが、顔寛恒氏が5073票差をつけられ落選。顔清標家が長い間かけて守ってきた盤石の地盤が崩れた瞬間でした。

 今年に入り、選挙区住民の楊文元氏が中心となり、罷免の住民投票が提起され、8月24日に実施が決まりましたが、新型コロナウイルスの感染拡大で10月23日に延期。國民党も、前出の韓國瑜前高雄市長の罷免投票に対する報復の一環で後押ししたようで、7万7899票の同意票を集め、罷免基準の7万3744票(選挙権者数29万4976人)を超えたことで、陳柏惟立法委員の罷免が確定しました。

 1月9日の補欠選挙は、それを受け実施されましたが、國民党は顔寛恒氏、民進党は元産婦人科の医師で2016年の立法委員選挙で比例区で当選し、1期立法委員を務めた林靜儀氏を公認候補にしました。

 選挙の結果は、林靜儀氏が8万8752票、顔寛恒氏が8万912票と7840票差がつきました。しかし、林靜儀氏は選挙速報で終始リードを保ち、選挙区内の地域ごとの票数も全部上回り、顔寛恒氏にとっては文字通りの「完敗」となりました。

【参考】

https://www.facebook.com/Rtijp/posts/1802888573233737

https://udn.com/news/story/122494/6020273

https://tw.news.yahoo.com/刪q爆紅-罷免提案人楊文元-發言人max是誰-080904300.html

https://www.storm.mg/article/3462750


12月17日の集会で演説する林靜儀氏

12月17日の集会で演説する林靜儀氏

 説明が長くなりましたが、以下、昨年12月に私が見てきた範囲で。

 林昶佐立法委員、林靜儀氏の「双林」は、どちらも演説で丁寧に説明を重ねてきた感じでした。

 林昶佐立法委員は以前も触れましたが、メタルバンド「CHTHONIC」のボーカルとしての知名度が高く、それを利用できる立場でもあると思うのですが、演説を見ている限り、そういった様子はなく、2016年の時代力量在籍時から政治家として堅実に実績を積み上げてきた印象です。前出の陳柏惟氏同様、無所属ながら民進党の支援を受けている立場故、國民党とその関係の支持者に狙い撃ちされた格好になった感じでした。

 林靜儀氏は、演説内容、話し方、論理構成いずれも申し分なく、しっかりしている感じでしたが目を引いたのは終了後でした。

 12月4日の説明会終了後、多くの来場者が記念撮影とサインを求め、長い列ができましたが、林靜儀氏は全部対応していました。会場の片付けが始まっている中でも、途中で打ち切ることなく、笑顔を絶やさず対応していました。そして終了後は周囲の人たちに感謝の言葉を述べ、会場を後にしました。

 12月17日の前夜集会では、会場の最寄りのMRT「台大醫院」駅の改札口を通過したホームに向かうエスカレーター前で支持者たちに囲まれ、サインと記念撮影を求められました。ここでも、駅員らの目を気にしながらも一切断らず、全部笑顔で対応しました。

 林靜儀氏は隙という隙を全く見せない感じで、テレビなどの公開討論が実施された場合、顔寛恒氏が苦戦する様子が容易に想像できる気がしました。一部伝わってきた話では、顔寛恒氏は立候補に乗り気ではなかったということですが、父の代から守ってきた地盤を取り戻したいという周囲の声や願望だけでなく、選挙でも相手陣営の実力者に屈した格好になりました。

 12月の住民投票、1月の立法委員の補欠選挙と住民投票で「完勝」した格好の民進党に対し、ますます不利な状況に追い込まれてきた感のある國民党。11月の統一地方選挙に向けて、どのような展開を迎えるでしょうか。


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