
源氏物語の台湾中国語版
旧正月の連休が明けた2月4~9日に、台北国際書展(ブックフェア)が開催されました。台湾だけでなく、日本や外国の作品、分野を超えた作品が集まる異文化・異業種交流の場として機能し、気軽に触れられるのが最大の魅力です。
今年も、おもしろい企画があったので、印象に残っているものを紹介します。

翻訳者の林水福先生
みなさんが学校で習った記憶がある「源氏物語」の台湾中国語版の翻訳書が、昨年10月に出版されました。その翻訳を務められた林水福先生のトークショーが2月7日午前11時45分から開催されました。
昨年、NHKの大河ドラマ「光る君へ」で源氏物語が注目されたこともあり、気になっていたので、見に行くことにしました。
林水福先生は、東北大学で博士の学位を取得されていて、日本関連では梅光女学院大学(現在は梅光学院大学)の客員教授、東北大学の客員研究員を務めた実績があります。文学関連では、台湾石川啄木学会会長、台湾芥川龍之介学会会長、日本語教育関連では台湾日本語教育学会理事長という日本語、日本文学の専門家です。
林先生は、トークショーの形で源氏物語を語っていきました。

和歌の翻訳に関するエピソードも披露
林水福先生の話の多くは、翻訳の苦労話でした。それを聞きながら、「私も中学、高校の国語(もしくは古文)の授業で文法に苦しみながら読んでたんだから、絶対そうだよね」と思いましたが、その世界観を自分の母語に置き換えながらまとめる作業をする苦労を思い起こさせるものでした。
その中でも特に難しかったのが、795首ある和歌の翻訳だそうで、具体的に例を挙げながら説明していました。和歌も、現代語でそのまま訳してはいけない表現、隠語のような隠れた意味や表現を丁寧に説明していましたが、話を聞いていて、中学と高校の授業を受けているような感覚になり、その時古文を苦手にしていたことを思い出し、頭が痛くなってしまいました。

筆に墨汁を染み込ませて著書にサインする林水福先生
トークショー終了後は、出版元の聯經出版のブースへ戻り、サイン会となりました。サイン会も全6巻、セット価格が定価3200元(約1万4555円、会場割引あり)と安くないのですが、何人かがすぐに購入し、先生のところへ赴いてサインをもらっていました。驚いたのは、筆でサインをされていたことです。今まで筆でサインをする方を見たことがなかったので、硯(すずり)に墨汁があり、そこに筆先をつけてサインする姿はかっこよく新鮮に映りました。

ブースの一角より
道具を片付けてからも、本を買ってサインを求める方がいましたが、そちらはサインぺんで対応していました。サインペンでも筆と変わらない力強さと達筆ぶりでした。
サイン会終了後、林先生とお話しする時間があり、「私は中学、高校と古文が苦手で、特に文法に苦しめられたんですが、それをどうやって克服されたんですか?」と聞いてみました。日本語を教えていて、今の日本語の文法でも、頭を抱えながら勉強している人を多く見かけるので、古文の文法まで克服して源氏物語の翻訳版を執筆するまでに至った過程を知りたかったんですが、明確な返答は得られませんでした。
それでも、林先生の姿を見ていると、「好きこそものの上手なれ」で、「好き」「おもしろい」をひたすら貫き、前へ進んでいったら、この領域に辿り着いた、という感じで、克服して行ったんだろうなぁと思いました。そのことも含めて、学校で先生から指導を受けている気分になり、懐かしく感じました。
学校を卒業してウン十年たちますが、背筋が本当に伸びた企画でした。
【参考】
https://www.linkingbooks.com.tw/LNB/author/Author.aspx?ID=0003370
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