
写真提供:菅野友之氏
中米ニカラグアに伝わる、怖いお話をひとつご紹介しましょう。
むかしむかし、ニカラグア北西部にある街チナンデガ市のある酒場でのできごとです。酔っ払いが憂さを晴らすために酒を飲むようなところでした。たくさん飲む人が男らしいとされていました。そして、家族を養うお金も酒に浪費してしまうのでした。
あの夜、暗闇が酒場を包んでいました。おおかたの酔っ払いたちも退散した後でした。家々の電球がひとつまたひとつと消えていきました。そして、長い道にひとつだけ、酒場の明かりが残りました。その酒場には、フィレモンとフェデリコとフェルミンの3人組がいました。
「俺は賭けるぞ!」と、赤毛のフィレモンは言いました。「墓場のひんやりした墓石の上に寝て、一晩俺は髪一本動かさない!」。
「軽蔑するよ!」とトウキビ頭のフェデリコが言いました。「俺は死体の棺を開けて、一緒に寝てやらあ。怖がったりしないぞ。賭けるか?」。
白髪のフェルミンもその賭けに参加しました。「そうだな、俺様は死者を取り出すぞ。そして一緒にひと踊りしてやらあ。」。
夜の冷たさが、鋭い刃物のように入ってきました。そして、3人はこんな音を聞きました。街道のこちらから奥まで届く大きな音で、世界中の骸骨の骨がひとつひとつぶつかって、同時にきしむような音でした。
プルン グン プルン グン チリン チリン プルン グン クル ルプン グン…
それは死者の荷車でした。死者の棺に、4つの巨大な四角い車輪がついたものでした。ガチャンガタン。たくさんの死者の霊魂は、荷車の上へあがり山積みにしなって、ほとんど荷車の中に入りきりませんでした。荷車は、べちょべちょした青白い死体でいっぱいでした。フィレモンとフェデリコとフェルミンの酔っ払い3人組は、また賭けをしました。誰が最初に酒場を出て行くのかで、下着を賭けることにしました。そして思い切って正面から、その大きな怪物である死者の荷車に目をやるのです。
最初にフィレモンが出て行きました。しょんべんしてから見に行くと言いながら。そして、戻ってくることはありませんでした。その後フェデリコが行きました。ほろ酔いでフィレモンを探しに行きました。帰ってきません。最後に、フェルミンが出て行きました。
何があったのでしょう?誰も答えません。
その翌日、酒屋の亭主は酔っ払いたちがいた場所に、鍋を洗うスポンジを3つ見つけました。ひとつは赤くて、もうひとつはトウキビの毛の色で、3つめは真っ白でした。おしまい。
参考文献:
「5つの怖いおはなし(原題:CINCO NOCHES ARRECHAS)」作:マリア・ロペス・ビヒル、ニビオ・ロペス・ビヒ
レポーター「中島 美絵」の最近の記事
「ニカラグア」の他の記事
タグ:8月のテーマ
- 2385 ビュー
- 0 コメント
0 - Comments
Add your comments