終わらないシリアやイエメンでの戦争。アラブ世界の平和を願う
2020.11.20 up
左からイエメンからのナセルさん、ヤセルさん、シリアからのアブドゥルさん、サウジからのアフマドさん
「夢はアラブ世界の戦争がなくなり、平和になること。そして家族が一緒に暮らせること」
そう話すのは2018年からイエメンの内戦を逃れてサンパウロに移り住み、難民認定されたイエメン人のヤセル・スライマンさん(37、イッブ出身)。
「アラブの春」を着火点に、2011年から続くシリア戦争や2015年から始まったイエメンでの内戦。多くの一般市民がその戦争の犠牲者となり、残された人々も以前のような平和な生活は保障されていません。
「イエメンでは電気がない、安全な飲み水もない、収入も得られない。とても普通に生きていける環境ではなくなりました。コロナ禍でさらに状況は悪化しています」
左からナセルさんとヤセルさん
戦争を逃れて、ヤセルさんは2年前にサンパウロに移り住むことを決意しました。現在は個人で運転手として生計を立てていますが、サンパウロは生活費が高く、決して余裕に生活できる環境ではありません。外国出身者には様々なハンディもあり、良い雇用があるわけでもありません。それでも、イエメンに残る妻と5人の子供を、将来は呼び寄せることを考えています。
そんなヤセルさんを頼って、今年3月9日にイエメンを離れ、8カ月間エクアドルで過ごした後、11月9日にサンパウロに一週間ほど立ち寄ったイエメン人のナセルさん(22歳)とラネーンさん(30歳)がいました。
ナセルさんたちもより良い生活環境を求めての長旅ですが、ブラジルでは生活の見通しが立たないと判断し、長く留まる予定はありません。しかし、落ち着く先もまだ決まっていません。
ヤセルさんはそんな一時の旅人である「兄弟姉妹」を温かくもてなし、サンパウロで同じように戦争を逃れて暮らすシリア人とサウジアラビア人の友人も招いて、ブラジルでは高価な羊肉を使ったイエメン料理を食べながら、つかの間の安らぎの時を過ごす一日がありました。
左からアフマドさん、アブドゥルさん、ナセルさん、ヤセルさん
サンパウロで最多の難民認定者数のグループはシリア人で約3000人。イエメン人は少数ですが、アラビア語を話すムスリムで情報交換するネットワークもあり、ヤセルさんもシリア人やレバノン人などの友人がおり、「困った時はお互い様」と、必要時には連絡を取り合います。
友人でシリア戦争を逃れてきたアレッポ出身のアブドゥルさん(30歳)は、
「イエメンはアラブ人のルーツの土地。旧約聖書に登場するアラブ人の祖であるアブラハムの息子イスマエルが生まれました」
と、現在の出身国は違ってもお互いを兄弟と呼び合い、同じ戦争の苦境を分かち合いながらサンパウロ生活を過ごします。
イエメンスタイルのターバンを巻くナセルさん
イエメンに誇りを持つヤセルさんたちは、民族衣装に着替えて、地域ごとに違うターバンの巻き方などを披露し合って記念撮影する一こまもありました。
サンパウロで中東各国の戦争を逃れて生活する人々。多くは20代、30代のごく普通の若者と、その夫婦の間に生まれた子どもたちです。本国でもブラジルでも暮らしは楽ではありませんが、大変な生活の中にもアラブ人の人情を感じさせる温かな交流のひと時を垣間見ます。
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