台湾で見るスシローの騒動
2022.06.28 up
昨年、facebookで出された広告のスクリーンショット
6月に入り、スシローの「おとり広告」のニュースが出て、今でも関連報道がなされています。スシローは、台湾でも昨年話題になったキャンペーン企画でも騒動を起こしています。
wikiペディアにも紹介されていることで、ご存知の方も多いと思いますが、実は、私もテレビ局の記者の取材を受けました。
その時のことを振り返りながら、個人的に感じたことを述べていきます。
スシローの台湾1号店(館前路店)
スシローは、他の日系回転寿司店よりも比較的遅い2018年6月15日に台北駅前の館前路に台湾1号店をオープンしました。
人気の高さは、他の日系回転寿司店が1号店をオープンした時同様、長い列ができ、開店当初は「○時間待ち」というのが当たり前の盛況ぶりでした。
その後、2018年9月6日に2号店(中華路店)をMRT西門駅からつながる西門地下街の6番出口前にオープンしてからは着実に店舗を増やし、現在台湾西部に28店舗(2022年6月現在)を設けるまでになりました。
【参考】
http://sushiro.com.tw/Shop
https://www.facebook.com/Sushiro.TW/
開店当初は、店舗で整理券を取るだけでも一苦労
店舗が増えてからは、時間に関係なく長い列が店舗にできることはなくなり、他のライバル店同様の落ち着きを見せていました。その中で、昨年3月に行なったキャンペーンが社会全体に大きな波紋を呼びました。
キャンペーンは、昨年3月17~18日に実施されたもので、中国語で「鮭」を意味する「鮭魚(読み方:グイユィ)」に因んで割引などを実施するというものです。
自分の名前に「鮭魚(読み方:グイユィ)」と全く同じ文字があった場合は無料、文字違いで同じ読みが2文字揃っていたら半額、同1文字は1割引というキャンペーンです。身分証を確認した上ですが、1テーブル6人分までこのサービスを受けられます。
日本人の名前を例にすると、仮に「〇〇鮭魚」さんという名前の人がいたら無料、「〇〇貴裕」さんは「貴裕(グイユィ)」が「鮭魚」と読みが同じなので半額、「〇〇正規」さんは「規(グイ)」の字、「〇〇裕」さんは「裕(ユィ)」の字が同じ読みなので、1割引です。
【参考】
https://www.facebook.com/Sushiro.TW/posts/pfbid02QcTNRTnNtVJ3wCfv8HhRx5QRXPb8wVB5dVVg5JEBoNr7nTgpfeAK5WKDu9243cWBl
この中に入っても、大勢の人が待っていることも多々あったので、それを見て食事をあきらめることも
台湾は日本と違い、名前を変えるのは容易で、「姓名條例」という法律の条文によると条件付きですが3回まで(手数料は1回80元で約364円相当)認められています。
その制度を利用して、およそ300人が「王鮭魚」や「陳鮭魚」などと名前を変え、1000人近くの人が無料の寿司を堪能した、ということです。
【参考】
https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawAll.aspx?pcode=D0030011
https://jp.rti.org.tw/news/view/id/93443
台湾2号店の中華路店
このキャンペーンのために、わざわざ名前を変え、無料の寿司を友人、知人と堪能した人が多数現れただけでなく、一部の人たちによる食事マナーの悪さも出てきたことで、社会問題になった感があり、私のところに知人を介してテレビ局の記者から取材の申し入れがあり、受けることにしました。
まず、最初に聞かれたのは「鮭」と「酒」の発音の違い。
台湾の人たちは「さけ」という発音を知っている人も多いのですが、その多くは日本酒を意味する「SAKE」の方なので、その違いについて日本語を教える側の目線で説明しました。
次に、日本の寿司屋の「鮭」のメニューについては、自分が学んだ範囲で、天然物の「鮭」は寄生虫の問題があり、生で出すところはなく、もし生で出しているところを見かけたら、それは北欧辺りが産地の養殖物で「サーモン」と英語の名称で出ている寄生虫の心配が全くないもののはずだ、と答えました。
続けて、「ただメシ」の為だけに自分の名前を変えることについて聞かれ、「本人が後悔していなかったら、それでいいのではないですか。特に意見や感想はありません」と答えました。ここはカットされたのですが、もし「せっかく親から授かった名前を一時の利欲で変えるのはけしからん!」などと発言していたら、放送されていたかもしれません。
日本でも同様のキャンペーンを実施するか否かの質問については、よく覚えていませんが、たぶん「難しい」とか「なんとも言えない」と答えていたと思います。付け加えで、日本では改名が難しいこと、過去にあった名前にまつわるエピソード(例:自分の子供に『悪魔』と名付け、自治体の窓口で出生届の受理を拒否された話)を紹介しました。
最後に、無料で食事をした人たちが寿司ネタだけを食べ、シャリを思いっきり食べ残している映像を見て、感想を聞かれました。これについては、「こんな食べ方をするくらいなら最初から刺身を食べればよいではないか!」と思わず強い口調で言ってしまいました。後付けですが、「(このような食べ方は)米を生産している農家のみなさんに大変失礼。何より(仕事とはいえ)その残飯を片付けさせられる店員さんの気持ちを考えないと…」という感想も残しましたが、最初の「こんな~」は放送され、「米を生産して~」のところはカットされていました。
台湾のメディアは、これを「鮭の乱(鮭魚之亂)」と名称をつけ、ありとあらゆる視点で報道しました。そして、取材を受けた私もその中にいた格好になりました。
スシローの1号店開店前から現在に至るまでの努力は、並大抵のことではなく、様々な困難と苦労があったと思います。ただ、台湾での「鮭の乱」も日本の「おとり広告」も実は地続きで、他のライバル店よりも注目を集め、少しでも利益をあげようとしていたのではないかと思わずにいられませんでした。
日本の回転寿司店が、商慣習や食文化が違う台湾で高いレベルで競い合っているのは日本人として誇らしく、決して悪いことではないと思いますが、同時に日本の食文化を台湾の人たちに伝える役割も担っていることをどうか忘れないでいただきたい、と切に願います。
【参考】
https://www.youtube.com/watch?v=B4avGiGF9nE
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