スイスにもある、カタコンベ(納骨堂)
2024.05.08 up
静かで美しい山岳地帯の町、ロイク
スイス南西部ヴァレー(ヴァリス)州には、多くの人気スキーリゾートや温泉地があり、夏や冬には世界中から多くの観光客が訪れるのですが、今回そういった有名観光地ではなく、日本でもあまり知られていないロイク(Leuk)という町を初めて訪れました。
ロイクは4000人ほどが暮らす小さな町なのですが、ある週末土曜日の昼過ぎに行ってみれば、住民らしき姿はほとんど見当たりません。
町の中心地だとみられる、大きな教会(聖シュテファン教会)と広場がある駐車場に車をとめ、辺りをぶらついてみることにしました。
昔のまま時が止まったかのような、古い町並み
教会横のスーパーには数人従業員らしき方がいた他、歩けど歩けど人がいません。唯一出会ったのは、我々のような観光客らしき人たちが数人。同じように町歩きをしているようでした。
古い家や牛舎が狭い石畳の道の両脇に並んでいて、そこを歩いていると昔のまま時が止まったような感覚を覚えました。もう家主がいないのであろう廃屋のような建物もちらほら。
ぐるっと軽く周辺を散策して、再び教会前まで戻ってきました。
そんな静かな町ロイクですが、この町にはある興味深いものがあります。それは聖シュテファン教会内にある納骨堂。ドイツ語で「バインハウス(Beinhaus)」と呼ばれています。
いわゆる“カタコンベ”のような場所で、カタコンベといえばフランスの首都パリにあるものが有名ですが、他の欧州の国々でも、こういった納骨堂や地下共同墓地が多く存在します。
町の中心にある聖シュテファン教会
スイスにも納骨堂がある教会は少なくなく、例えば筆者が住むエリアから遠くない場所にある教会には、人の目につくところに大量の遺骨が納められている一角があり、初めてそれをまともに見た時はかなり驚きました。日本では考えられない風景です。
さて、聖シュテファン教会内にある「バインハウス」は16世紀初めから存在する、歴史ある納骨堂です。
現在は遺体安置所としても使用されているそうで、その場合を除き、毎日朝9時から午後6時まで無料公開されています。
昔は埋葬場所が不足していたため、輪番制的に埋葬された遺体を、骨になった頃に再び掘り起こし、その遺骨をバインハウスに納めていったそう。
しかし19世紀頃になると埋葬場所不足問題は解消されていき、納骨堂の役目は終了。
遊び半分で頭蓋骨を盗む輩が増え、また頭蓋骨の壁はグロテスクすぎて見たくないという苦情も出てきたことから、漆喰の壁を作って頭蓋骨の壁を隠したのだとか。
バインハウス(納骨堂)の内部
その後1982年、教会の改装工事の時に、再びこの頭蓋骨の壁が日の目を見ることとなりました。同時に、当時の貴重な絵画や彫刻品も一緒に色々と発見されたのだそうです。
さて、筆者がバインハウスを訪れた時は他に誰も人がおらず、たった一人で数万の頭蓋骨と対峙することとなりました。ちょっぴり怖かったです。5分ほどして辺りを散歩していた夫がバインハウスに到着。
想像していたよりも頭蓋骨の数が多くて圧倒されたのですが、高さ2メートル、長さ20メートル、そして厚さも3メートルあるという頭蓋骨の壁に囲まれて、中心部にイエス・キリストの像がありました。頭蓋骨の数は2万4千ほどあると推測されているそうです。
たくさんの頭蓋骨に見つめられているような気がして、数メートル離れて遠くから眺めていたのですが、夫は頭蓋骨と額がくっつくほどじっくり観察したり、奥まで入っていって、そこにある頭蓋骨の壁を見て回っていました。
「メメント・モリ(ラテン語で“死を忘れることなかれ”)」という言葉が頭に浮かびました
きっと死や骸骨に対する、ヨーロッパ人と日本人の感覚は全く違うのだろうなと思いました。
そういえばヨーロッパのカタコンベは、頭蓋骨などの遺骨を芸術的に(?)飾り立てて、それを一般公開している印象が強いのですが、日本ではありえないですよね…。きっと「バチが当たる」「呪われる」という発想になるに違いありません。
日本ではタブーというか、忌避すべき存在になりがちな骸骨も、ヨーロッパの人々にとっては人間の延長、もしくは人生のちょっと先輩、的な身近な存在になるのかな?などと考えつつ、ロイクの町を後にしました。
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