インドネシア

インドネシア:ジャカルタ

岡坂泰寛(オカサカヤスヒロ)

職業…記者(邦字新聞「じゃかるた新聞」記者)

居住都市…ジャカルタ(インドネシア)

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津波で打ちあげられたままになっている発電船。休日は多くの観光客が集まり、船の上にも上がれるようになっている

津波で打ちあげられたままになっている発電船。休日は多くの観光客が集まり、船の上にも上がれるようになっている

 「津波で世界に名は知れた。今が観光振興のとき」とアチェ州議会のスレイマン・アブダ副議長は意気込む。
 2004年に発生したスマトラ沖地震・津波で17万人の死者を出したインドネシアのアチェ州。州都バンダアチェは今年、「観光年」と銘打ったキャンペーンを実施し、津波博物館や住宅地に打ち揚げられたままとなった発電船を観光の目玉としてアピール。敬虔なイスラム教徒が多く、長く独立紛争が続いた地が、「津波観光」を契機に大きく変わろうとしています。
 
 被災から7年。最も被害が甚大だったバンダアチェに入りました。市街を歩くと、まだ真新しいコンクリート造りの商店や再建されたモスクなど、復興の面影が目に入ってくる。買い物をする家族連れや談笑する若者の男女、自転車で走り回る子どもたち…。郊外の農村へ行くと、自然の中で人々が暮らす牧歌的な風景に出合いました。

 地元住民たちは日本人である私の姿を見つけると「あの時は支援は忘れない」と声を掛けてきました。


バンダアチェ市からボードで約1時間のウェ島は、観光地としてすっかり定着した。

バンダアチェ市からボードで約1時間のウェ島は、観光地としてすっかり定着した。


 2009年に開館した津波博物館の1階。54個の石が並べられており、それぞれの石には国名が刻まれていました。同館職員によると「支援してくれた国への感謝を忘れないため」に制作したオブジェです。東日本大震災の後には、インドネシアでは各地で日本を支援するチャリティーイベントや義援金の呼び掛けが行われました。

 感謝を覚えていてくれた住民たち。そんな中、決まってある質問を投げかけてきます。「なぜ学んだ教訓生かさなかった」「どうして危険な場所に原子力発電所を建てたんだ」
 震災後、世界中から多数の研究者が訪れたアチェ。日本からも地震や津波、土木、気象、危機管理の専門家や大学教授が相次いで現地入りし、被災者には防災研究のかじ取り役に映ったはず。住民らは「津波の恐怖を日本に帰って伝えなかったのか」と腑に落ちない表情をしていました。


津波博物館の一室。犠牲者の名前が書かれたプレートが壁に並ぶ。

津波博物館の一室。犠牲者の名前が書かれたプレートが壁に並ぶ。

 しかし、インドネシアでも防災の気運は高まり切っていません。国連開発計画(UNDP)などを始め多数の非政府組織(NGO)が制作した防災教育用の本はあるが、政府との連携が足りずに学校現場に流通していないのが現状。被災地では震災後まもなくは政府や外国からの支援もあり、高台で暮らす住民も多かったが、交通の不便さや市街地から離れていることを理由に、再び海岸沿いに住むケースが増えています。

 津波の最も早く到達した海岸沿いを訪れると、新たに建造された鉄筋コンクリートの橋で釣りを楽しむ家族連れの姿があった。若者の一人は「津波は恐ろしい。けれど、自分が生きている間にはもう起きないだろう」と楽観的です。

 津波で社屋が被災し、記者の3割が亡くなった地元紙「スレンビ・インドネシア」を訪れました。編集部デスクのヤルメン・ディナミカさん(46)は、住民の危機感が薄れていると指摘。「同じ規模の津波が起こったら、また惨事が繰り返される」と話し、政府の防災活動の遅れに警鐘を鳴らしました。


津波博物館1階に並べられた石。支援を受けた証として、「JAPAN」の文字が刻まれている。

津波博物館1階に並べられた石。支援を受けた証として、「JAPAN」の文字が刻まれている。



◇スマトラ沖地震・津波
 2004年12月26日午前7時58分50秒(インドネシア西部時間)、スマトラ島沖を震源に発生。米地質調査所によると、マグニチュード(M)は9.1。津波がアチェ州やタイ、スリランカなどに押し寄せ、同州では高さ約35メートルに達した。インド洋沿岸諸国で死者・行方不明者は22万人を超え、日本人40人の死亡も確認された。



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タグ:津波,観光,復興

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