上海の街は半年と同じ景色を見ることができないほど変化を続けていますが、一方で「優秀歴史建築物」として保存されている建物が多々あり、それらが新しい利用法で街の中に生き続けています。

そんな建物の中でも今回はちょっと珍しい建物をご紹介します。

ここは虹口区の「上海19参III老場坊」という名の施設です。劇場やクリエイティブな職種のオフィス、カフェやレストランなどが入居しており、現代上海の芸術空間の一つとして利用されていますが、元は驚くことなかれ、食肉用の動物を解体する屠畜場だった建物でした。

時は1933年、工部局宰牲場（宰牛場）として建てられたこの建物は、イギリスの建築士Balfours氏の設計によるもので、外国人が急増し需要が増えた牛肉の供給のためのものだったといいます。彼の設計は細部まで計算しつくされており、それらは私たち人間のためにこれから死を迎える牛をありがたくいただくために衛生的かつ迅速に作業が行われるようになっていたそうです。外観の美しい丸い窓、これは通気をよくするためのもの。採光と通気への配慮があり、牛にとっても作業員にとってもストレスを軽減してくれる大切なものであったのかもしれません。

今回、上空から見下ろす形の写真撮影ができなかったためご紹介できず残念なのですが、この建物は24角形の美しい建物とそれを四方から囲む棟とで構成されており、外から見るのと中へ入ったのとではまったく世界観の異なる構造になっています。

中へ入ってみましょう。

建物の中には表面がでこぼこした長いスロープがあります。「牛道」と呼ばれる、牛の歩く道です。滑らないようにでこぼこに加工してあるのですね。牛はこの道を進み、2階と3階にある加工場で食肉へと変わっていきました。

その作業工程にあわせて作業員が移動できるように組まれた階段は、まるで迷路のようです。
リノベーションによって当時のその工程を知ることはできなくなってしまったと言いますが、それでも実際に建物の中を歩いてみると、その複雑な構造が決しておもしろおかしくデザインされたものではないことを感じ取ることができます。

先の戦争の時には、この施設も日本軍に接収されたといいますし、少し先には当時の中部日本小学校（現・虹口中学）がありましたから、この建物を知る日本のご老人もたくさんいらっしゃるかもしれませんね。

4階にある空中舞台は床がガラス張りの大きな円形のステージです。おそらくこれはリノベーションによって生まれたものです。写真は3階から見上げたところですが、4階にも上がってみました。高所恐怖症の私にはとても恐ろしくてガラスの床の上には立ってみることができませんでした。

訪れたのが平日の昼間でしたし、ちょうど大学生が期末試験の真っ最中でしたから、ホットスポットと呼ぶほど賑わってはいませんでしたが、立派な一眼レフのカメラを抱えた人たちがあの階段を上ったり下りたりしながら写真を撮っていました。

人によっては屠畜場を商業施設にするなんて、何と趣味の悪いことをと思われるかもしれません。しかし、ここを訪れることによって、食肉は最初からスーパーマーケットでトレイに詰められたあの状態にあるのではないということを再認識することができる、万物への感謝を忘れない、そんな学びがあると考えれば、この建物を保存して活用していくことはいいことなんじゃないかな、そう感じました。

＊上海19参III老場坊
　上海市虹口区沙涇路10号（漂陽路611号）
　http://www.1933shanghai.com/

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