オランダ

オランダ:アムステルダム

フリードリヒス カオル

職業…フリーライター

居住都市…アムステルダム市(オランダ)

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 日本では、田畑を荒らす害獣というイメージがあるイノシシ。ヨーロッパでは、オランダ、隣国ドイツ、そしてベルギーなどの森に生息し、身近な動物の一つでもあります。

 イノシシというと、「猪突猛進」という例えがあるように、どちらかというと「暴れたら何をするか分からない」とか、「危険」と考える人も多いでしょう。ところが、オランダをはじめとするヨーロッパでは、あまり「怖い動物」とは思われていないようです。例えば、ウォルト・ディズニーのアニメに登場したりして、かわいらしく擬人化されている要素が強いためかもしれません。


「横断するイノシシに注意」の道路標識も(画像提供:Gelderlander)

「横断するイノシシに注意」の道路標識も(画像提供:Gelderlander)

 クリスマスや年末になると、ジビエとしてイノシシの料理が食卓に上りますし、子どもたちは「豚のいとこ」などと揶揄(やゆ)して、誰もが親しみを感じている動物であることは事実です。

 そんなイノシシは普段、人里離れた森の中に生息する動物と考えられています。ところが、この森の中の一部がキャンプ場となっているような場所では、道路にイノシシが平気で現れ、人間にもなれた個体が出没することがあります。


 というのも、キャンプ場に来る人たちが、残飯を与えるせいなのです。イノシシが定期的に餌をねだりに来るキャンプ場は人気があり、一種の「人寄せイノシシ」のようになっている場所もあります。これまでのところ、人間に対する被害は報告されていませんが、自然愛好家からは賛否両論。野生動物を餌付けすることを良しとしない自然愛好家や野生生物専門家たちと、「なれているし、かわいいんだから、餌をやったっていいじゃないか!」という一般人との意見の食い違いが論争を呼ぶこともしばしばです。


はく製になった「ズゥイ―ゴ」と対面した子どもたち(画像提供:Natuurmuseum)

はく製になった「ズゥイ―ゴ」と対面した子どもたち(画像提供:Natuurmuseum)

 数年前のことですが、オランダ東南部にあるネイメーヘン市の住宅街に、突如、1頭の雄のイノシシが姿を見せました。人間を恐れず、その地域にあった幼稚園付近に好んでやって来ては、愛嬌(あいきょう)ある姿を見せていたため、子どもたちの人気者になりました。映画「ライオンキング」に登場するイボイノシシの名前から、Zwigo(ズゥイ―ゴ)と呼ばれるほどになりましたが、いくらおとなしいといえ、野生動物は野生動物。子どもたちに万が一、被害が出る前に対処しなくては…と案じる市役所と、野生生物専門家たち、そして父兄の間で長いこと論議がなされました。


 その結果、子どもたちにとっては悲しい結末を迎えざるを得なくなりました。ズゥイ―ゴは、駆除されてしまったのです。しかし、子どもたちにとってそのイノシシの存在は大きく、「ズゥイ―ゴ・ロス」によって悲しむ子どもたちの心身面を考慮し、市役所はズゥイ―ゴをはく製にし、自然博物館に寄贈することを決定。子どもたちはズゥイ―ゴに会うため、定期的に博物館に通いつつ、野生生物と人間の共存について多くのことを学んだといいます。「ある意味で、ズゥイ―ゴは僕らのために命をささげ、大きな役割を果たしてくれたんです」と、今はもう成長した「当時の子どもたち」が語っているのが非常に印象的でした。


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