日本犬が、欧州で静かなブームを呼んで以来、もはや１０年ほどがたちます。日本犬のどこが好きなのか？とヨーロッパの日本犬愛好家の人たちに聞いてみると、犬の魅力全てを兼ね備えているから、という意見が多いようです。

　日本犬人気の火付け役は、アメリカ映画のＨＡＣＨＩ約束の犬にあるといわれています。この作品は、どちらかと言えばティーン向けの、ただの動物映画なのでは？というのが欧州各国での前評判だったこのですが、子どもと一緒に鑑賞した大人たちのほうがすっかりハチおよび秋田犬に魅了されてしまったというのが真相のようです。主人公・ハチのように、深い愛情を主人に捧げる日本犬こそ、犬の中の犬であり、 誰にも媚びず主人一筋である点が、こうした熱烈なるファンを増やした最大の理由なのでしょう。

　欧州の都市部では最近、秋田犬や柴犬をちょくちょく見かけるようになりました。日本犬のどこにひかれたのかを聞いてみると、異口同音に同じ答えが返ってきます。物静かで柔順、そして主人の顔色を読むことができるという絶賛の声はもちろんですが、反面、非常に頑固でドッグランに連れて行って他の犬たちと遊ばせることが難しい、という意見も聞かれました。残念なことに現在、ベルギーには既に日本犬専用のシェルター（保護施設）が設立されており、飼育やしつけに失敗し日本犬を手放すオーナーが愛犬たちを預けに来るという事態にもなっています。見た目がかわいいというだけで飼い始めないよう、熟考して飼育するよう、こうしたシェルターでは注意喚起を促す目的をも担っているそうです。

　他の日本犬種である狆（ちん）や日本テリアも、ごくたまにですが見かけます。立ち耳・巻き尾の日本犬とは容姿こそ異なりますが、それだけに希少価値があるとオーナーたちは自慢します。超大型犬一筋だった人が最愛の犬を失って悲観に暮れていたとき、ひょんなことから狆と出会い、癒しの眼力ともいえる大きな瞳にすっかり魅了されてしまい、複数の狆とと暮らすようになったという逸話もありましたが、これぞまさしくうなずける話かもしれません。

　街で日本犬を連れている人に出会うたび、私は必ず声をかけることにしています。その犬がどこで生まれたとか、どんな名前をつけているかに、単純に興味があるからです。クマ、テツ、アキラなど日本の名前で呼ばれている犬が多く、ほとんどが欧州生まれですが、中には、はるばる日本からやってきた犬もおり、オーナーたちは殊の他それを自慢しているようです。彼らの夢は、自分の犬のルーツを探るため、日本に行くことだといいます。犬との素晴らしい出会いは、パートナーと出会うよりも難しい、などとヨーロッパの人たちは揶揄（やゆ）しますが、もしかしたら近い将来、日本犬のルーツを探る旅がはやる日がやって来るかもしれません。

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