■外資の工場開き盛んに
　　成功懸け華やかに創業祝う

　豊富な資源に恵まれ、驚異的な経済成長を遂げるインドネシアに狙いを定め、世界各国の企業が首都ジャカルタに生産拠点を移しています。新しい合弁企業や工場・事務所の開設が盛んになり、ジャカルタのホテルの宴会場では、企業のオープニング・セレモニーやセミナー、富裕層の結婚式や誕生パーティ、政党や団体の旗揚げ式や集会が頻繁に開かれるようになりました。華やかな会場で目立つのはインドネシア名物とも言える豪華な花看板。ジャカルタの伝統市場の一つ、チキニ花市場は、24時間休まず開店。深夜でも注文を受け付け、カラフルな花や草木を飾り付け、思いっきり元気で、派手なメッセージを人々に贈り届けています。

　深夜零時。中央ジャカルタにあるチキニ駅の高架下に並ぶ花屋の店先で、畳ほどの広さをしたキャンバスの白地が闇夜に映えていました。
　男たちが数人集まり、数種類の花や造花を器用に飾り付けていく。すると、数分で花文字が完成。「ＬＡＷＡＮ（戦え）」。急きょ、翌朝に開催が決まった野党・闘争民主党の集会向けに注文が入ったのは、午後11時を過ぎたころでした。

■お得意さんは日・韓
　市場で25年間働いているヤントさん（50）によると「企業からの注文がここ数年増えた」という。「日系企業なら三菱や富士通、ヤマハ、ホンダ。最近多いのは韓国のサムスンだ」。別の店のテーブルには、見慣れたロゴが印刷された大手日系銀行の名刺が置かれていました。
　インドネシアで開催される式典で必ず見かける花看板。それは「congratulation」「semoga　sukses（成功を祈る）」などのお祝いや成功の言葉を花文字で表現し、オープニングセレモニーや集会に彩りを添えます。
　花看板の需要が伸びている背景に、内外企業の生産拠点や事務所の開設ブームがある。毎日、どこかの工業団地や高層ビルで、オープニング式典が開かれている。富裕層の結婚式や誕生パーティなどのお祝い事に花看板を贈るケースも増えています。週末には１日だけで、５件の注文が入ることもあり、忙しいときは周りの店に助っ人を頼む盛況ぶりです。

■花の産地はバンドン
　バラ、蘭、ガーベラ、ナデシコ‥。店内に並んだ数十種類の花を蛍光灯と裸電球が照らす。週３回、西ジャワ州バンドンの業者がワゴン車で花を卸しに来る。花看板の需要を見越して花の卸値が上昇し、花看板の価格も年々上がっています。
　花の種類によって異なるが、高さ1.25メートル、幅２メートルの花看板は、安いものでは50万ルピア（約4600円）から。
　ヤントさんによると、花看板の花の原価は約50％。残りは制作費と配達料という。造花は西ジャカルタのマンガブサールで開かれる朝市で４キロ40万ルピア（約3700円）で仕入れています。
　電話やＳＭＳ（携帯のショート・メッセージ・サービス）でも注文を受け付けている。約１―１時間半ほどで看板を完成させ、ワゴン車の荷台に載せて配達。中央ジャカルタ地区なら注文を受け、３時間ほどで会場まで届けます。

■ブタウィ人の誇り
　なぜか、市場で働く男性のほとんどは、ジャカルタ土着のブタウィ民族。「チキニの花市場は（第二次世界大戦前の）オランダ統治時代からあった。1991年にチキニ駅が立体化され、この当たりは賑やかになった」とヤントさんは話す。
　最近はショッピングモールの中に、高級ぶった花屋が増えている。「私たちの店は24時間営業。それは伝統市場の強みだ。どんな注文にもすぐに対応できる」とある店主。それが伝統市場の誇りであり、意地です。
　ブタウィの若者たちをいかに後継者として育てるかが課題となっている。看板を作っているのはほとんどが新人。何十年もの間、大量の花を集荷し、育て、飾り付けてきた伝統市場のベテランであるヤントさんは「街の景観は変わっていくが、夜も眠らない市場がなくなることはない。急に花看板が必要になったとき、いつでも注文を受け、届けることができる店を守り続けたい」と語った。

レポーター「岡坂 泰寛」の最近の記事

• インドネシア人好み焼き鳥とは
• 蚊退治の必殺ラケット
• 路上のパンク修理屋、庶民の味方

「インドネシア」の他の記事

• インドネシアに金メダル！世界２位の報奨金の額は！？
• GO-JEKでポケモンGOを探せ？！
• ジャカルタでテロ、その時市民は…